和歌山地方裁判所 昭和34年(わ)47号 判決 1959年6月12日
被告人 加藤喜平
大七・一〇・四生 土木請負業
田辺正春
昭七・三・二五生 土工
主文
被告人加藤喜平を懲役参年に、被告人田辺正春を懲役八年に処する。
但し、被告人加藤喜平に対してはこの裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予する。
未決勾留日数中八拾日を被告人田辺正春の右本刑に算入する。
領置してある日本刀弐振(昭和三四年裁領第三五号の一、二)は没収する。
訴訟費用は全部被告人加藤喜平の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人加藤喜平は和歌山県伊都郡九度山町上古沢に飯場を設け、土木建築請負業株式会社森本組の下で班長として数十人の土工を使用し、右森本組の請負にかかる高野山有料道路建設工事に従事していた者被告人田辺正春は被告人加藤に雇われ、同被告人の主宰する班の世話役をしていた者であるが、
第一、昭和三四年二月九日、たまたま同日が旧暦一月二日に当つており、且つ、降雨のため午後から仕事が休みになつたため被告人加藤は前記飯場において被告人田辺を相手に飲酒していたところ、午後四時半頃同飯場へ元同飯場の土工大瀬某と同行して未知の土工の清水一夫こと堤巌(当二七年)、中島一夫(当三二年)外二名が来て雇傭方を依頼したので、同被告人も快よくこれを承諾し、被告人田辺に食事や寝具の準備をさせたのであるが、その直後右堤等四名が理由を伏せて就労方を辞退する旨申し入れ、とりなしにも応ぜず、すげなく立去つたので、被告人加藤は酒の勢も手伝い、右堤等の態度が無礼であり、旧正月早々けちをつけられたとして憤懣の情治まらず、被告人田辺にもこれを告げ、よつて被告人両名は共謀のうえ右堤等を詰問して謝罪させようと企て、且つ相手方の態度如何によつては同人等に危害を加えることあるをも予期して各自同飯場にあつた日本刀一振を携え、なお同飯場の土工一名を連れて直ちに右堤等四名を追跡し、同日午後五時過頃、同郡九度山町上古沢所在の上古沢大橋橋上に至り堤等四名を呼びとめて謝罪させようとしたが、かえつて同人等が反抗的な態度をとつたので、被告人加藤は所携の日本刀(昭和三四年裁領第三五号の一)の鞘の先をもつて右中島の右前額部を突いて同部位に打撲傷を与えたところ、その傍にいた堤巌が「兄貴を遣つたな」と言い、一層反抗的な態度を示し、更に被告人田辺の日本刀を見て「おいそんなもの持つて斬れるなら斬つて見よ」等放言したので、ここに被告人田辺は憤激のあまりむしろ堤等を殺害するもやむをえないと決意し、所携の日本刀(昭和三四年裁領第三五号の二)をふるつて右中島及び堤に斬りかかり、よつて右中島に対しては治療約一〇日間を要する右肩胛部切創の傷害を与えたにとどまり殺害するに至らなかつたが、右堤に対しては鎖骨下動静脈切損を伴う長さ約一八糎巾約六・五糎の左肩胛部切創、長さ約一二糎、巾約五糎の左肩背部切創、長さ約一一糎巾約六糎の右肩関節部切創を与え、同人をして同日午後七時五〇分頃、同郡かつらぎ町妙寺二二〇番地和歌山県立医科大学附属病院紀北分院において失血のため死亡するに至らしめ、もつて同人を殺害し
第二、被告人加藤は、法定の除外事由がないのに拘らず同月五日頃から同月九日までの間、同郡九度山町上古沢所在の当時の同被告人の飯場内において、刃渡約六九糎五耗の日本刀一振(昭和三四年裁領第三五号の一)を所持し、
第三、被告人田辺は、法定の除外事由がないのに拘らず、同月九日午後五時過頃、同郡九度山町上古沢所在の上古沢大橋において、刃渡約六九糎五耗の日本刀一振(昭和三四年裁領第三五号の二)を所持し
たものである。
(証拠の標目)(略)
(法令の適用)
被告人両名の判示第一の所為のうち殺人の点は刑法第一九九条第六〇条に、殺人未遂の点は同法第二〇三条第一九九条第六〇条に、判示日本刀所持の所為は各銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項第三一条第一号に該当するところ被告人田辺の以上の罪は刑法第四五条前段の併合罪であるからいずれも所定刑中有期懲役刑を選択し、同法第四七条第一〇条により最も重い殺人罪の刑に同法第一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人田辺を懲役八年に処し、同法第二一条により未決勾留日数中八〇日を被告人田辺の右本刑に算入することとし、被告人加藤については判示第一の犯行時殺人の意思を有していたと認められないので、同法第三八条第二項により重い殺人及び殺人未遂罪の刑に従つて処断することはできず、結局軽い同法第二〇五条第一項の傷害致死及び同法第二〇四条罰金等臨時措置法第二条第三条の傷害罪の刑に従つて処断すべく、以上は刑法第四五条前段の併合罪であるから、右傷害及び判示第二の罪についてはいずれも所定刑中懲役刑を選択し、同法第四七条第一〇条により同法第一四条の制限内で法定の加重をした刑期の範囲内で被告人加藤を懲役三年に処するが、情状により同法第二五条第一項第一号を適用して、この裁判確定の日から四年間右刑の執行を猶予することとし、領置してある日本刀二振(昭和三四年裁領第三五号の一、二)は被告人加藤、同田辺が判示第一の各犯罪行為に供したもので被告人加藤以外の者には属しないから同法第一九条第一項第二号第二項によりこれを没収し、訴訟費用については刑事訴訟法第一八一条第一項本文を適用して全部被告人加藤に負担させることとし、よつて主文のとおり判決する。
(裁判官 中田勝三 尾鼻輝次 富永辰夫)